アオイは二輪車に跨って運転を始めた。
走行中ではあったが、
その運転速度はあまり速くない。
鞄からひょいっと出て、
アオイの肩へと移動した。
「ねえ、ご…アオイ」
「何?」
「お釣りを貰わなかったね」
肩に乗っている俺を一瞥し、
歯を見せて笑った。
「気付いてたの?
受け取らなかった理由」
「匂いでわかるよ」
アオイの窃盗に、
俺は気付いていた。今着ている服の下に、
おそらく店で買えなかった服を着ている。
試着室に入った理由は
この服を手に入れるため。
どんな服であっても、
服の個性とも言える素材の匂い。
デザイン以外の服の個性。
「そっか。そうだよね…
あ、ルミ。ここの路地、入るよ」
「良いけど…なんで?
あの服、そんなに――」
「後で話すよ。少し静かにしてて」
声の調子がいつもとは違う。
その表情は何処か
険しくなっているように見えた。
部屋に戻ってからアオイは
いつも着ている服を脱ぎ、
盗んだ服を姿見で確認していた。
黄土色に近い上下
カーキー色の服が今回の収穫物。
先程アオイの肩に乗っている時に
嗅いだ時の匂いと同じだった。
大目に払ったお金はこの代金分だろう。