「そうかい。いやぁ、

 

旅人さんがこの宿へ来るなんて、

 

何年ぶりかしら」

 

「そうなんですか」

 

ご主人は彼女の他愛のない話に

 

相槌を打ちながら、

 

記入用紙にペンで記入をした。

 

頬を掻きながら、彼女は話を続ける。

 











 

「いっつも、旅人さんは

 

三ツ星のホテルとかに泊まっちゃうから、

 

私達が旅人さんとあまり

 

お目にかかる機会が無いのよ。

 

金持ちばっかりが良い思いをするのね、

 

世の中って」

 

ご主人のペンが止まっているのに

 

気付いたのか、視線を記入用紙へ移す。

 

頷きながら、ヘレンはご主人を再び見た。

 

ご主人は全ての記入箇所に

 

文字を書き終えていた。

 









 

「二泊で良いのね?

 

ここの階段を上がって廊下を歩くと、

 

この部屋があるから。

 

疲れてるでしょうから、

 

ゆっくりしていってくださいな」

 

にこやかに笑って、

 

ヘレンは上へ行くように

 

手振りで促してきた。

 

礼を述べ、俺達は移動した。

 

部屋に入ると、室内はとても綺麗だった。

 

鞄からひょいっと飛び出て周りを見渡す。

 

シャンデリアが天井からぶら下がっており、

 

部屋を見渡しても塵一つない。

 











 

ご主人は部屋の扉を閉じて、

 

ベッドにどっと腰を下ろした。

 

ゆっくりするのかと思って肩から降りると、

 

ご主人はふいに立ち上がった。

 

壁側に歩いて壁を触る。

 

窓を眺めたり、

 

カーテンの色をチェックしている。

 

服どころか肩から提げた

 

ショルダーバッグすらも身に着けたまま、

 

一通り部屋を眺めた。

 





 

ご主人は顎に手を当てて考え込んだ。

 

しばらくして黙ったまま部屋を出たので、

 

訳も分からずご主人の肩に飛び乗り、

 

状況を静観する。

 

再び階段を降りると、

 

先程の女性は受付から姿を消していた。