ご主人は足元に挟んでいた

 

フルフェイスのヘルメットを

 

サイドミラーにかけて降りた。

 

二輪車に付いている

 

赤色のボタンを押すと、

 

一瞬で二輪車が

 

直径三センチくらいの

 

丸いカプセルになった。

 

これは以前に訪れた街の発明品だ。

 









 

ご主人はそれを

 

ウエストポーチに

 

拾い上げて入れると、

 

扉を押し開けて

 

ホテルの中へ足を踏み入れた。

 

建物、いや、屋敷内は

 

意外にも質素だった。

 

シャンデリアと

 

大きなカーペットが

 

敷かれているだけで、

 

それ以外に絵画や

 

無駄な置物が並んでいなかった。

 









 

「すみません、

 

ここに泊まりたいんですが」

 

「おや、あんた旅人さんかい?」

 

軽快な声が飛んできた。

 

ホテルに入って正面の受付には

 

三、四十代の女の人が居た。

 

彼女は眼鏡を押し上げて俺達を見る。

 

彼女は目を丸くしたまま

 

俺達を観察しているようにも見えた。

 

「はい、お察しの通りです。ヘレンさん」

 













 

ご主人はいつものように

 

親しみやすい声色を作り、

 

ヘレンに微笑んだ。

 

彼女は目を何度か瞬かせた。

 

名前を呼ばれたことに

 

驚いているのだろう。

 

見えはしないが、

 

名札でも見つけて

 

彼女の名前を口にしたと思われる。

 

ヘレンはその後、

 

ふと我に返ったように

 

咳払いをして表情を取り繕う。