ラスボスに微々たるダメージを与える。

 

ラスボスは全然痛がる様子を見せなかった。

 

それがとても楽しい。

 

丘田はダメージを与える度に口角を上げた。

 

痛くないだろう?

 

そうだろう?

 

お前にとって全然痛くない攻撃だもんな!

 

玄関の方で開錠の音が聞こえる。

 

ボタンを押していればいいので、

 

丘田は顔を向けた。

 





 

 

そこに居たのは、彼女だった。

 

目は少し濁って見え、

 

いつもの明るいオーラは

 

何処にも見当たらなかった。

 

「どうしたの?」

 

丘田は彼女に問いかけたが、

 

彼女からの返事は無かった。

 

ただ、黙って丘田の横に来て、

 

座ってゲームの画面を眺めていた。

 

彼女は一言も喋らなかった。

 





 

右手をお腹に当てて、

 

円を描くように擦っていた。

 

彼女が言葉を発さないので、

 

上の空でやっていたゲームに

 

集中することにした。

 

ラスボスは体力を

 

少しずつ減らされていた。

 

しかし、丘田達は知っている。

 

こいつは十回まで体力を

 

回復する術を持っていることを。

 





 

敵の魔力が無くなった時、

 

この敵は初めて

 

自分を癒す手段を失う。

 

その時、

 

このラスボスは初めて知るのだ、

 

丘田の感情を。

 

丘田は彼女に話しかけなかった。

 

話したいことがあれば

 

彼女の方からしてくるだろうと

 

思っていたからだ。

 





 

丘田はそうするうちに

 

彼女の存在を忘れ始めていた。

 

横に置いてあるもののように、

 

微動だにせずに、

 

言葉も発しなかったからだ。

 

丘田はそのうち、

 

再び一人の時と同じように

 

画面の中に向かって

 

話しかけるようになった。