今年の二月、ミカンは死んだ。

 

蚊のせいだという。

 

獣医さんから言われたのは、フィラリア症という言葉だった。



「フィラリアって言うのは、犬の心臓の寄生虫。

 

 これが恐ろしい病気を引き起こすんだってさ。

 

 元々、犬にだけの寄生虫って思われていたんだけど、

 

 近年猫にも寄生するってことが分かったんだって。

 

 猫の場合は、肺に障害を起こすんだ」

 

獣医さんに話を聞いた時、自分は放心状態だったのだろう、その話を憶えていなかった。

 

後々になって工藤に聞いてみると、呆れた表情で教えてくれたのだ。

 

工藤がその時のことを思い出しているのだとしたら、自分には掛ける言葉も無かった。

 

もう過去のこと、と言ってもやはりそう割り切れるものでもない。

 

愛着があったからこそ、不意を突いて引き出された記憶は、

 

自分の感情とは無関係に脳内を駆け巡っていた。

 

「悪い、変なこと思い出させたな」

 

工藤が顔に笑みを作ってみせる。

 

哀愁が何処となく漂っているのは、自分の気のせいだろうか。

 

目頭が熱くなり始めていたのを抑えるようにして、鞄からタオルを取り出し顔に当てる。

 

ぐっと力を入れて再び顔を見せると、工藤はにっと笑ってみせた。



「あー、次の化学の時間が終わったら移動教室か。面倒臭えなあ」

 

話題を逸らそうとしている工藤の心遣いが心に沁みる。

 

目から出るものを抑えることは出来たが、まだ心は動揺していた。

 

声を出さずに浅く頷く。

 

こうして気を利かせてくれる工藤も、ミカンが死んだ時は、かなり荒れていたと聞いている。

 

工藤を心配したクラスメイトが彼の家に見舞いに行った時に、

 

発狂するような彼の声を聞いたらしい。

 

クラス内ではそういった噂が広まっていた。

 

結局、その噂に真実味は無かったのか、近所の隣人が叫ぶか、

 

テレビゲームやドラマの音を聞き違えたかという話で落ち着いていた。