自分は目を疑った。

 

工藤の両目の端から頬に掛けて水が零れ出していた。

 

彼はそれを拭うこともせずに自分と目を合わせている。

 

自然と浮かんだ彼の笑顔を、今日初めて見るような心地で見返した。

 

「じゃあね、バイバイ」



工藤が優しく自分に言葉を発した瞬間、体に力が入らなくなった。

 

膝から崩れ落ち、床に伏せるような格好で倒れる。

 

「な…ん……で……」

 

力を振り絞って工藤に尋ねる。

 

工藤は背を向けたまま、その場に立っていた。

 

「俺の力を知っている人は、

 

俺みたいな力を持つ人間以外が知っていてはダメなんだ」



そう言うと、工藤が階段を降り始めた。

 

倒れた自分を見ないまま、去って行く。

 

まだ死にたくない。

 

そう願いながら、閉じようとする瞼に力を入れる。

 

しかし、力が入らず、寧ろ重くなってきた。

 

去り際に見せた工藤の表情は、まだ涙跡が渇いていなかった。

 

その表情は、どういう意味なのか。

 

答えてくれる人は、もうそこには居なかった。

 

そして、瞼は、静かに、閉じた。